冒頭:価値ゼロだと思っていた「黒い塊」
「なあ陽太、ちょっとこれ見てくれよ」
私は、納戸の奥で見つけた埃っぽい箱を、リビングで最新のスマホをいじっていた次男の陽太の前に差し出した。
「これ、昔の忘年会のビンゴで当たったんだけどさ。メルカリでいくらで売れる? ほら、今はみんなスマホで撮るだろ? こんな小さなデジカメなんて、もう誰も使わないよな」
陽太は、私が差し出したその「黒い塊」を見た瞬間、フリーズした。……いや、正確にはスマホを操作していた指が止まり、獲物を見つけた猛禽類のような目で箱を凝視した。
「……父ちゃん、これ、本気で言ってる?」
陽太は恭しく、まるで国宝を扱うような手つきでそのカメラを手に取ると、青いロゴを指差した。
「これさ、『Carl Zeiss(カールツァイス)』のレンズだよ。ドイツの名門中の名門。カメラ好きからすれば、レンズにこの名前が入ってるだけで拝みたくなるレベルなんだから」
「カール……? どっかの高級外車みたいな名前だな」
「あながち間違ってないよ。特にこの初代RX100は『伝説の始まり』って言われてる名機なんだ。いい? 2012年発売なのに、未だに現役で使ってるプロもいる。なぜか。このサイズに、当時の常識を覆す『1.0型大型センサー』をぶち込んだからだよ!」
陽太の早口が止まらない。彼は私の反応も待たずに、ガジェット特有の「熱」を帯びた口調で続けた。
「今のスマホ、俺のPixel 9だってAIが超優秀だから、パッと見は綺麗に撮れる。でも、このRX100が持つ『光を物理的に取り込む力』と、ツァイス特有のコントラストの高さ、空気の切り取り方は別次元なんだ。いいから父ちゃん、売るなんて馬鹿なこと考えずに、まずはそこにあるもんでいいから撮ってみなよ。このカメラが『ただのデジカメ』じゃないって、一発でわかるからさ。」
「……へぇ、そんなにすごいもんだったのか」
私は圧倒されながら、電源を入れてみた。ウィーンと静かに、しかし精密機械らしい重厚な音を立ててレンズがせり出す。
ソニーの名機「初代RX100」が放つ1.0型センサーの衝撃
「ちょっ、待て! 親父、ストップ!
それ、物理破損のフラグ立ってるから!
沈胴式(ちんどうしき)レンズが伸び切ってる時に衝撃入ったら、光軸ズレて即文鎮(ぶんちん)だよ!
液晶もコーティング弱いし、マジで物理防御ゼロだから。
とりあえずそのストラップに手首通せ! 頼むからその『命綱』だけは繋いでくれ!」
「スマホの記録」から「一眼の記憶」へ
「わかったわかった!わかったよ…
とりあえず……愛が大事に育ててるあそこの観葉植物でも撮ってみるか」
私は、とりあえず設定などはよくわからないので「おまかせオート」のまま、リビングの窓際にあるパキラにレンズを向けた。
シャッターボタンを半押しする。ピピッと小気味いい音がして、フォーカスが合う。そのまま指を押し込むと、軽い「カシャッ」という音が響いた。
「お……?」
背面液晶に映し出された画像を見て、私は言葉を失った。
それは、いつもスマホで撮る「平べったい記録」ではない。窓から差し込む光を浴びて、葉の一枚一枚が生き生きと浮き立ち、背景がトロけるように柔らかくボケている。
「なんだこれ……プロが撮ったみたいじゃないか」
「だろ? それが『光学の力』だよ、父ちゃん」
陽太がニヤリと笑った。
それまでただの「不用品」だと思っていた黒い塊が、私の手の中で、外の世界を劇的に変えて見せる「魔法の道具」に変わった瞬間だった。
「お、これもいいな。こっちの使い古した皿も、なんか……『味』があるっていうのか?」
私は無心になっていた。窓際のパキラから始まり、リビングテーブルに置かれたままのマグカップ、さらには妻の愛が並べた不揃いの小皿まで。RX100を構え、夢中でシャッターを切っていく。
しかし、カメラの小さな液晶画面では、正直「なんとなく良さそう」くらいにしかわからない。
「なあ陽太、これ、もう少し大きく見られないか? 老眼のせいか、ピントが合ってるのかも怪しくてさ」 「ああ、それならHDMIでテレビに繋げば一発だよ。ちょっと待ってて」
4Kテレビに映し出す「2000万画素」の真価
陽太が部屋から持ってきたケーブルを繋ぐと、我が家の4Kテレビに私の撮った写真が次々と映し出された。 その瞬間、リビングに「おおっ……」という、地鳴りのような歓声が上がった。
「陽太、これ……テレビで見ても全然ボロが出ないんだな。むしろ、カメラの画面で見るよりずっと綺麗に見えるぞ」
私の素直な驚きに、陽太が少し得意げに解説を加える。
「当たり前だよ。このカメラ、2000万画素もあるんだから。4Kテレビだってだいたい800万画素くらいだし、解像度的にはお釣りがくるレベルなんだ。今のスマホも画素数だけは凄いけど、この『一粒一粒の光の濃さ』までは真似できないんだよ」
「しかし陽太、おまえ、どんなケーブルでも持ってるな……」 「あ、これは昔『ラズパイ』で使ってたやつ。……本当はこれ、USB給電しながらの再生には対応してないハズ…あ、さすがにバッテリーは死にかけかな?」
陽太が何やらブツブツ言っている横で、画面には逆光に透けるパキラの葉が大きく映し出されていた。
家族を驚かせた「一粒一粒の光の濃さ」
「えっ、これ父さんが撮ったの? すごいじゃん、なんかインスタのオシャレな広告みたい」 と、外出から戻ってきていた長男の陽介が驚きの声を上げる。
「あら、このお皿、こんなに綺麗だったかしら。なんだか高級レストランのメニューみたいね」と愛までが身を乗り出した。
家族全員からの予想外の絶賛。
私は鼻の下を伸ばし、すっかり得意満面になっていた。
「ふふん、まあな。やっぱり『弘法筆を選ばず』っていうか、俺に隠れた才能があったってことだろうな。これなら、もうスマホなんていらないんじゃないか?」
私が調子に乗ってそう言い放った瞬間、それまで解説役に徹していた陽太の目が、スッと細くなった。
「……ちょっと待って。父ちゃん、それは言い過ぎ。今の写真は、あくまでツァイスのレンズが『撮らせてくれた』だけだから」
陽太はポケットから自分のPixel 9を取り出し、画面をタップした。
「確かにRX100は名機だけど、素人が適当に撮って100点に近い写真を量産できるのは、間違いなく俺のPixel 9の方だよ。夜景も、動くものも、AIが全部完璧に処理してくれるんだから。まだ父ちゃんの腕じゃ、スマホに勝つのは10年早いね」
「なんだと? 道具のせいにするなよ。この『空気感』はスマホじゃ出せないって言ったのはお前だろ?」
「それは使いこなせたらの話! 今のはビギナーズラックだって!」
火がついてしまった。こうなると私も引き下がれない。
「Pixel 9 vs RX100」新旧写真対決、勃発!
「よし、わかった。ならハッキリさせようじゃないか。明日、みんなで鹿島神宮へ散歩に行くんだろ? そこで『Pixel 9 vs RX100』の写真対決だ。どっちが心を動かす写真を撮れるか、勝負だ!」
「望むところだよ。負けたらそのRX100、俺がメルカリに出して手数料もらうからね!」
こうして、ただの不用品整理から始まった休日は、期せずして「新旧カメラ戦争」の火蓋を切ることになったのである。
今回の「復活劇」を支えた必須アイテム
SONY RX100 シリーズ
「今更10年以上も前のカメラなんて手に入るの?」と思うかもしれませんが、中古市場では今でも愛される名機です。運が良ければ、当時の定価の数分の一で手に入ることも。
RX100の中古在庫を楽天市場でチェック※中古品は一点モノが多いので、在庫状況はこまめにチェックしてみてくださいね。
眠っていたRX100を現役復帰させるために、陽太が「とりあえずこれだけは」と念を押した3種の神器がこちらです。
液晶保護フィルム(強化ガラスタイプ)
「ソニーのカメラは液晶のコーティングが剥げやすいのが弱点。ボロボロになる前に、専用の保護ガラスでガードするのが鉄則だよ」
【ここがポイント】 古いカメラでも液晶が綺麗だと、撮る時のモチベーションが全然違います。
予備バッテリー&充電器
「10年も眠ってたバッテリーは、いつ寿命が来てもおかしくない。外で撮影中に電源が落ちると萎えるし、古いバッテリーが本体の中で膨らんで抜けなくなるなんて最悪!、信頼度の高い純正バッテリーに交換は必須だね」
【ここがポイント】 初代RX100は本体充電ですが、外付けの充電器があると、撮影中に予備を充電できるので安心感が違います。
リストストラップ
「親父、悪いことは言わないからストラップだけはしてくれ。レンズが出たまま落としたら、修理代で新しいカメラが買えちゃうからね」
【ここがポイント】 RX100のような小型カメラには、手首にしっかり固定できるハンドストラップが機動力もあって最適です。


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