鹿嶋での撮影を終え、私はすっかり「一丁前」になった気分でいました。 「なあ陽太、見てくれよこの写真。広角レンズのおかげで、北浦の空がドーンと入って、俺もいよいよプロっぽくなってきたと思わないか? ……となると、やっぱり次は『単焦点レンズ』だよな?」
夕食後、お小遣いサイトの残高を睨みながらそう切り出した私に、陽太は食事の手を止め、かつてないほど真剣な眼差しを向けました。
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陽太の宣告:巨匠たちが愛した不自由
「父ちゃん、レンズを買い足せば『いい写真』が撮れると思ってるなら、それは大きな勘違いだ。戦場カメラマンのロバート・キャパの言葉を知ってるか?」
「キャパ? 何とかって賞を獲った有名なカメラマンだろ?」
「お、半分正解。報道写真で最も権威がある賞、『ロバートキャパ賞』の元にもなってる人だ」
陽太は少し意外そうな顔をしたあと、すぐに表情を引き締めて続けました。
「でも、父ちゃんが知っておくべきなのは名前じゃない。彼が命を懸けて導き出した、この真理だよ。
『君の写真が良くないのは、あと一歩踏み込んでいないからだ』
……耳が痛いだろ?」
陽太は私のスマホを取り上げ、私が撮った北浦の写真を指差しました。
「父ちゃんはズームレンズに頼って、自分が動くのをサボってる。焦点距離を変える前に、自分の足で一歩前に出たか? 道具の限界を嘆く前に、自分の『踏み込み』の甘さを疑うべきだよ」
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最高の部品は「カメラの後ろ」にある?
私は言葉を失いました。確かに、ズームリングを回すことで、自分と被写体の「距離」をウヤムヤにしていたのかもしれない。
「さらにもう一つ。風景写真の神様、アンセル・アダムスは、こう言ってる」 陽太は人差し指を立てて、私に問いかけました。 「『最も重要なカメラの部品は、カメラの後ろ12センチのところにある』。……何のことかわかる?」
「カメラの後ろ12センチ……?」 私は自分のD5100を思い浮かべ、得意げに答えました。 「おお、わかったぞ! レリーズ(リモコンシャッター)のことだろ! 俺もそろそろ手ブレ防止に買おうと思ってたんだよ。さすが陽太、話がわかるじゃないか」
「…………」 陽太は深い、深いため息をついて天を仰ぎました。 「そんなこと言ってるから、父ちゃんの写真はいつまで経っても進歩しないんだよ。後ろ12センチにあるのは、レリーズじゃなくて『父ちゃんの脳みそ』のこと!」
「えっ、俺の頭のことか……?」
「そう。レンズのF値やボディの画素数じゃない。父ちゃんの脳がどう光を感じ、どう構図を描くか。そのアップデートを怠って新しいレンズをねだるのは、弘法筆を選ばずの逆、道具に踊らされてるだけだよ」
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知識という「研ぎ澄まされたレンズ」を求めて
「悔しかったら、今のズームレンズを指先の一部にするまで使い込んでみなよ。今の父ちゃんに必要なのは、ガラスの塊じゃなくて、プロの眼差しを盗むための『知恵』だ」
陽太の言葉が、図星すぎて胸に刺さります。私は手元のD5100を見つめ、少し食い下がるように聞き返しました。
「……わかったよ。じゃあ、その『脳みそ』のアップデートってやつはどうすりゃいいんだ? 陽菜がいつもスマホでエモいとか映えるとか言ってる、インスタでも見て勉強すりゃいいのか?」
私がそう尋ねると、陽太は鼻で笑いながら首を振りました。
「父ちゃん、インスタは『完成品』を見せる場所だからね。裏側のデータ(EXIF)を盗みたいなら、もっとストイックな場所を覗かなきゃ。インスタの画像には、設定データは残らない仕様なんだよ」
「なんだ、せっかく陽菜に教わろうと思ったのに。使えないなぁ」
「……ま、インスタの『構図』だけでも、父ちゃんにとっては十分すぎるほど勉強になると思うけどね。もしインスタで勉強したいなら、この3つを意識してみなよ」
陽太は指を折りながら、私に画面を見せました。
「一つ目は、キャプション(投稿文)を隅々までチェックすること。プロや写真好きの人は、本文の中に親切に『#f1.8』とか『#SS1/500』なんてメモを残してくれてる。それが答え合わせになるんだ。
二つ目は、思い切って投稿者に直接聞いてみること。『同じD5100ユーザーなんですけど、どういう設定で撮ったんですか?』ってコメントすれば、大抵の人は喜んで教えてくれるよ。カメラ好きは教えたがりが多いからね。
で、三つ目が本命。本気でEXIFを盗むなら、『Photohito(フォトヒト)』、『GANREF(ガンレフ)』みたいな写真共有サイトを狙うんだ。Nikon使いの父ちゃんには『Nikon Image Space』がおすすめかな。あそこなら、使ったレンズから絞り値まで、丸裸のデータが公開されてる。そこは、映えを競う場所じゃなくて、腕を磨くための『道場』なんだよ」
陽太は私に、Nikon Image Spaceで公開されている熟練者たちの撮影設定、そしてカメラ雑誌のサブスクリプションを提示しました。
「ここに並んでるのは、父ちゃんと同じ機材で撮られた傑作たちだ。彼らがどう『踏み込み』、どう『脳みそ』を回転させたか、その設定(EXIF)を全部盗んでみろよ」
私はその夜、単焦点レンズの購入ボタンを閉じる代わりに、カメラ雑誌のバックナンバーを貪り読み始めました。 画面の向こうの巨匠たちが、私に語りかけてくるようでした。「道具に言い訳をさせるな」と。
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🎁 「カメラの後ろの12センチ」を鍛える、至高の修行ツール
1. カメラ雑誌読み放題サブスク(dマガジン等) 巨匠の特集から最新プロの撮影設定まで。機材一本分以上の価値がある「知識の宝庫」です。 [自分をアップデートする。カメラ雑誌のサブスクはこちら]
2. 巨匠たちの写真集(Kindle / ペーパーバック) 「あと一歩」の踏み込みとは何か。本物を見ることでしか養えない感覚があります。 [一生モノの感性を磨く。世界の写真家たちの名著]
3. Nikon Image Space & X(#Nikon #D5100) 同じ機材で撮った写真の設定を研究し、自分の「後ろ12センチ」を鍛えましょう。
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次回予告:第7話【カメラマンの矜持】撮って終わりじゃない!メンテナンスと「次なる一歩」への準備
